NIBフロントライン

米富繊維社長
大江健氏
大江健氏
【インタビュー】
 -業界の現状と自社の取り組みは。

 「少子高齢化などを背景にファッション業界全体の流通額が減っている一方、海外で安価に製造された衣料品が大量に日本に入り、供給量は上がる矛盾を抱える。日本の市場で流通しているニット製品などは大半が海外生産で、国内生産のシェアは1%にも満たない。新型コロナウイルス感染拡大前から日本のファッション業界は縮小しており、在庫過多や商業施設が多すぎるなど、さまざまな課題がコロナによって一気にあぶり出されたように感じている」
 「2010年、米富繊維として初の自社ブランド『COOHEM(コーヘン)』を発売した。男性用、女性用を展開し、私たち自らがデザイン、生産、販売するスタイルを確立させるのに奔走してきた。第2の自社ブランド『THIS IS A SWEATER.(ディスイズアセーター)』を20年に立ち上げた。まさかのコロナ禍で延期も考えたが、社内外に前向きな要素を発信したいと決断した」

 -自社ブランドに力を入れる理由と今後の展開は。

 「山辺町はニット産業のまちとして栄え、私が小さい頃は同級生の家族の多くがニット工場で働いていた。だが今は従事する人が減少し、それだけ日本では商品を作っていないということ。OEM(相手先ブランドによる生産)だけでなく、オリジナルブランドを作る『自立化』は昔から言われていた課題だ。まだ直営店を設けていないが、期間限定イベントには東北近県からの来客も目立ち、だいぶ根付いてきた。需要を踏まえ、来年以降の直営店出店も視野に入れている」

 -求める人材は。

 「人物重視の採用を続けている。自分もUターン組に入るが、県外でさまざまな経験を積んだ人は貴重な戦力。工場なのでミシンを操作できる人も必要だが、オンラインショップの運営やブランドの企画ができ、海外展開強化のために語学に堪能な人など、さまざまなタイプの人材を求めている」

 -影響を受けた人物は。

 「創業者である祖父(良一さん)。他社に先駆けてセーターを開発したり、設備導入を図ったりしたという話を聞いている。今までやってきたことにとらわれず、正しいと思ったことにチャレンジするということ。そんな創業者の精神を自分なりのやり方で、時代に合わせて受け継いでいくべきだと思っている」

 ★大江健氏(おおえ・けん) 日大山形高、千葉商科大卒。IFIビジネススクール(東京)でファッションビジネス、デザインなども学んだ後、都内セレクトショップに勤務。2007年に米富繊維に入り、専務などを経て15年から社長。山辺町出身。44歳。

 ★米富繊維 初代の故大江良一さんが1952(昭和27)年に創業したニットメーカー。素材と商品の開発から量産まで一貫して手掛ける。OEM・ODM(相手先ブランドによる設計・生産)、自社ブランドの展開を事業の柱に据える。2010年、独自のニット生地を使った初の自社ブランド「COOHEM」を、20年には新ブランド「THIS IS A SWEATER.」をそれぞれ立ち上げた。従業員数55人、資本金6300万円。山辺町山辺1136。

【私と新聞】自分の引き出し増える
 本紙や業界紙に目を通すという大江健社長は、新聞の魅力は一覧性にあるとし「ウェブもあって便利な世の中だが、新聞を読むと本屋を訪れたときと一緒で、たまたま見つける情報(一冊)がある。興味がないニュースにも触れることで自分の引き出しが増える」と話す。
 社会人として最低限の知識を身に付けてほしいと、若いスタッフには新聞を奨励している。自身が気になった記事はスマートフォンで共有することもある。視野を広げて社会全体の流れを把握することは、ファッション業界で働く上で欠かせないと感じているからだ。書籍から得たヒントも基に「感覚だけで生産量などの物事を決めるのではなく、社会の潮流を考え、情報を蓄積して対応していくことが大切」と強調する。

【週刊経済ワード】新たな就農支援策
 最大1000万円の一括支援を受け取るには、生産する作物の面積や数量、将来の農業経営の構想を「青年等就農計画」に取りまとめ、市町村から認定を受ける必要がある。親元で就農する場合は、5年以内に親の経営を継承、発展させるなどの条件が加わる。1000万円は日本政策金融公庫が無利子融資し、償還金を国と地方自治体が折半して全額支援する方向だ。
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