NIBフロントライン

芦野工業社長
鈴木末三氏
鈴木末三氏
【インタビュー】
 ―業界、自社の現状は。

 「再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が追い風となり、ここ5年ほどは既存の水力発電施設を更新する事業の受注が増えている。当社も全面的な更新工事だけで年5、6件を手掛けている。好調の流れはこの先も5~6年続くだろう。しかし、更新後の設備の性能が優れていることもあり、以前は4、5年ごとに行っていた大規模修理が15、16年に1度に減っている。一方で製造メーカーがメンテナンスまで直接手を掛けられなくなってもおり、当社も販路を拡大して北海道から九州まで仕事を受けている。直近では原材料高のリスク対策が課題だ」

 ―水力発電は日本でも明治時代に始まった歴史ある発電だが、近年はSDGs(持続可能な開発目標)達成の観点からも国産の再生可能エネルギーとして注目されている。

 「火力発電に押されて小規模施設が撤去された時代もあったが、持続可能な発電手法として見直されている。2020年度は国内の総発電電力量の8%弱を水力発電が占めており、太陽光発電と同程度だ。当社の業務そのものが地球環境に優しい水資源の有効利用への貢献であり、人々の暮らしを支える仕事。誇りを感じている」

 ―求める人材と育成法は。

 「業務は水力発電プラントの設計と製作、現場での据え付け、水力発電機器のメンテナンス、営業など非常に幅が広い。顧客の満足を得る質の高い製品とサービスの提供などを品質方針に掲げており、どの分野でも熱意ある人材が欲しい。指示された仕事だけこなすのではなく、工夫・改善していける人材だ。自分の仕事が水力発電の現場でどう生きているかを見ると、仕事の面白さが分かり意欲も高まるため、設計の担当者にも現場を見るよう指導している。専門知識が必要な部署では65歳前後のベテランを専門職として配置し、後進を育成している」

 ―最も影響を受けた人物とその教えは。

 「芦野政五郎・初代社長だ。入社後7年ほど社長宅に同居し、後ろ姿から多くのことを学んだ。機械はごまかしが利かない。それなりの製品でもうければいい、というのではなく、品質を徹底する人だった。経営者はどんな場面でも自ら判断しなければならないことも教えてもらった」

 ★鈴木末三氏(すずき・すえぞう) 鶴岡工業高等専門学校卒。1970(昭和45)年、芦野工業設立後の学卒第1号として入社。天童工場長、専務などを経て2005年8月、3代目社長に就任。東根市出身。71歳。

 ★芦野工業 水力発電機器・プラントメーカー。故・芦野政五郎氏が1963(昭和38)年、水車のメンテナンスが主の平興業山形営業所として事業開始。69(同44)年に芦野工業を創業。79(同54)年から水車本体の設計から製作、施工まで手掛けるようになった。東北電力など電力会社や県などの水力発電プラントの設計・製作、据え付けと関連機器のメンテナンスのほか、大型機械部品や鉄骨などの加工も行う。本社所在地は山形市などを経て2016年から現在の天童市石鳥居3の1。川崎市に京浜事務所を置く。資本金7500万円。従業員数は約125人。

【私と新聞】地域の幅広い話題を収集
 地元の情報収集に山形新聞を活用しているという鈴木末三社長。朝、自宅でざっと広げ、忙しい時間の合間合間に目を通す。「地域のさまざまな方と話す際に、地元の話題が頭に入っていないとね。山形新聞は会話の潤滑油になっている」と笑う。地域の小さな話題を含め、幅広い話題が掲載されている点も評価している。
 1面から、おくやみやスポーツまで一通り目を通し、事故の記事は自身や自社の他山の石として捉える。ふと目が止まるのが、読者から多様な意見が寄せられる「やましんサロン」のコーナー。「なるほどと思う考えや、心温まるエピソードなど、いい内容が多く、読むと『日本もまだまだ大丈夫』と心強くなる」と語る。

【週刊経済ワード】台湾積体電路製造(TSMC)
 台湾北西部の新竹に本社がある半導体製造企業。1987年設立。半導体製造の注文を受けて生産だけを担う「受託製造」の先駆者で、世界的に大きなシェアを持つ。新型コロナウイルス禍からの景気回復で、世界中から半導体の注文が殺到し生産能力を増強中。2020年に米西部アリゾナ州での工場建設計画を発表したほか、21年には茨城県での研究開発目的の子会社設立や熊本県での工場建設計画を公表した。20年末時点の従業員数は5万6000人超。
[PR]