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阿部玩具社長
阿部龍太氏
阿部龍太氏
【インタビュー】
 -伝統と革新が共存する業界の現状、自社の挑戦分野は。

 「少子化と節句文化離れで雛、五月人形の売り上げは減少傾向が続く。節句関連商品は扱う店舗がかなり減少したため、当社は本社に展示場を設け、購入の場を提供している。卸業ならではの品ぞろえで、展示中の五月人形は100種類超が並ぶ。節句は日本人が大切に守ってきた文化。子どもの健やかな成長を願い、子に降りかかる災いを人形が代わって受けてくれるとの意味もある。文化そのものをつないでいきたい。一方で玩具は、大人が夢中になるプラモデル、フィギュア、ゲームなどが各メーカーから積極投入され、おもちゃ業界全体の売り上げは2014年度以降8千億円台を維持している。大型小売店の進出で、まちのおもちゃ屋さんは次々と姿を消した。その結果減少した、おもちゃを選ぶ場と、おもちゃ倉庫を探検する楽しみを提供したいと、数年前から本社で倉庫開放セールを年数回開催している。これも挑戦の一つだ」

 -新型コロナウイルス禍の影響は。

 「年々拡大していたインターネットでの販売が急伸した。外出自粛や接触を避ける消費者心理が背景にあったと思う。しかし、実際に目で見て、触れて選びたいとのニーズは根強くあり、これ以上、急激に拡大することはないのではないか。コロナ禍で、おもちゃは子どもの成長のために、心身の健康を保つために必要な存在なのだと再確認した。家族のコミュニケーションツールでもある。おもちゃに携われることに感謝し、皆さんに喜び、楽しみ、癒やしを届けられるよう、経営努力を続ける」

 -求める人材と育成方法は。

 「幅広い事柄に興味を持ち、面白いと思える感受性のある人だ。毎月数百もの新商品が発表される業界のため、皆さんがどんなことに興味・関心を持っているのかを予想し、取捨選択するには日頃からアンテナを張っていなければならない。入社後は社員の話を聞くことを大切にし、何がしたいのか、どんな企画を考えているのか、聞きながら実現を後押ししている」

 -仕事で影響を受けた人は。

 「的確に時代を捉えて礎を築いた創業者の文三郎氏と、事象を冷静に検証し、理路整然と判断する実父の城谷豊・先代社長、カリスマ性にあふれた山内溥・元任天堂社長だ。自分はとてもまねできないが、少しでも近づけるよう自己研鑽(けんさん)の日々だ」

 ★阿部龍太氏(あべ・りゅうた) 和光大人文学部(現・現代人間学部)卒。舞台芸術の世界での活動を経て1994年、母の実家で経営していた阿部玩具に入社。98年に3代目社長に就任、卸売専業から小売業に事業拡大した。2010年に登場したご当地ヒーロー「ガ・サーン」(コロナ禍で活動休止中)の仕掛け人。東京都出身。日本人形協会東北支部長。62歳。

 ★阿部玩具 桐だんすを製造販売していた阿部家に婿養子に入った故・阿部文三郎氏(阿部龍太社長の母の姉の夫)が1949(昭和24)年、阿部商店として玩具、文具、雑貨の卸売業を始める。55(同30)年に玩具卸専業となり、65(同40)年に阿部玩具に組織を改める。札幌、盛岡、仙台市に営業所を置き関東、西日本にも販路を持つ。現在は卸売業に加え、本社で節句人形やランドセルを販売。米沢市と福島県会津若松市に店舗「おもちゃ屋本舗」を開く。資本金4500万円、従業員35人。本社所在地は山形市流通センター1の6の3。

【私と新聞】交流深めるきっかけに
 多くの地元企業、経営者と取引、交流があるが、山形新聞を読み、知らなかった業務内容や新分野への挑戦、趣味の活動を知ることがあるという阿部龍太社長。「その人とさらに深く交流するきっかけをくれる」と本紙を評価する。
 経済面では、ヒット商品の誕生秘話や新商品コーナーがお気に入り。スポーツ面も隅々まで目を通す。バスケットボール男子のBリーグ1部(B1)横浜BCでプレーする阿部龍星選手(山形南高出身)は阿部社長の次男。共に汗を流した本県出身選手の活躍も、試合結果が細かく掲載されてうれしく感じている。「自分の子ども、孫だけでなく同級生だった子の活躍はどうかと追い掛けている保護者は多い」と笑った。

【週刊経済ワード】ベースアップ(ベア)
 企業が従業員の基本給の水準を一律に引き上げる賃上げの手法。年齢や勤続年数に応じ賃金を上げる定期昇給とは異なる。基本給は業績に左右されにくく、水準が上がれば従業員の生活安定につながる。一方、企業には恒久的な負担増となる。春闘の主要な争点とされる。日本を代表する大企業であるトヨタ自動車が近年、賃上げ額にベアを含むかどうか非公表にし、春闘相場のリード役を降りる動きが出ている。
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